フリーランス新法とはどのような法律?~施行日までに発注事業者が準備すべきこと~

内閣官房による統一調査によれば、フリーランスとして働いている人の試算人数は462万人(※)。働き方の多様性を認める風潮も味方して、今後ますますフリーランスという就業形態を選ぶ人が増えていくことが予測されています。
高齢化社会で現役をリタイアした後、フリーランスとして働くミドル・シニア世代も増加しているなか、企業などから不当に買いたたきに合うことなどがないように、法整備の必要性が論じられてきました。
フリーランス実態調査結果
(※)サンプル:144,342人 調査期間:2020年2月10日~3月6日※参照元:内閣官房日本経済再生総合事務局「フリーランス実態調査結果」(令和2年5月)
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/freelance/dai1/siryou7.pdf
Table of Contents
フリーランス新法の施行日はいつ?
フリーランス新法はフリーランス保護新法とも呼ばれる法律で、2023年5月12日に公布されました。公布日から1年6か月以内に施行されるのが通例ですが、現時点では2024年11月1日に施行される予定になっています。
正式な法律の名称は「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)」です。フリーランスの方々の就労環境の整備と、フリーランスが不当に不利益を被ることのないように新たに制定された法律です。
フリーランス新法が制定された背景や具体的な内容について説明する前に、このフリーランス新法の対象者を整理しておきます。発注側と受託側について、以下のように適用範囲が定められています。
ご自身が該当するかしないかを確認してから、読み進めてください。
【法律の適用対象】
発注事業者とフリーランス間の「業務委託」にかかわる事業者間取引(BtoB)
【発注側】
個人・法人にかかわらずフリーランスに業務委託する事業者で、従業員がいるすべての組織
※個人であっても従業員を雇用している場合は、本法律が適用される
【受託側】
企業の業務委託を受けて仕事をする事業者で、従業員がいない個人
※消費者を相手にする、不特定多数の企業を相手にする、従業員がいる場合は、本法律においてはフリーランスに該当しない
参照元:厚労省「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(フリーランス・事業者間取引適正化等法)リーフレット
法律というのは難解な表現が多いので、フリーランス新法が適用される当事者と取引の定義について、もう少しくわしく説明します。
フリーランス新法の対象者と定義
前述した順に対象者とフリーランス新法の定義について説明していきます。
特定業務委託事業者(発注事業者)の定義
フリーランスに特定の業務を委託する事業者は、法人・個人にかかわらず特定業務委託事業者としてフリーランス新法の対象者となります。従業員のいる組織もしくは個人であれば、組織の規模や従業員数にかかわらず、適用されます。
従業員がおらず代表者ひとりで運営しているweb編集事務所など、組織に属さずフリーで仕事をしている人がほかのフリーランスに業務委託をする場合も、特定業務委託事業者とみなされます。
ただし発注事業者の条件によって、法令で定める「義務項目」に違いがあります。この義務項目詳細については後述します。
従業員の定義
なお、従業員の定義は
- 週労働20時間以上の就労があり、なおかつ31日以上の雇用が見込まれる者
- 短期間、短時間など一時的に雇用される者は含まない
となっています。
業務委託の定義
業務委託には情報成果物の作成や役務の提供、物品の製造などがありますが、労働者として働く場合はフリーランス新法ではなく労働基準法などの労働関係法令が適用されます。
参照元:厚労省
「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(フリーランス・事業者間取引適正化等法)リーフレット
特定受託事業者(フリーランス)の定義
同じフリーランスでも、消費者向け(BtoC)の業務をした場合や、不特定多数の企業と仕事をしている場合などは、フリーランス新法の対象外です。
第2 基本的考え方 1 フリーランスの定義
「フリーランス」とは法令上の用語ではなく、定義は様々であるが、本ガイドラインに おける「フリーランス」とは、実店舗がなく、雇人もいない自営業主や一人社長であって、 自身の経験や知識、スキルを活用して収入を得る者を指すこととする。
中小企業庁「フリーランスとして安心して働ける環境を 整備するためのガイドライン」
ただしたとえフリーランスであっても、ほかのフリーランスに業務を依頼している場合などは、本法律においてはフリーランスとはみなされません。
要するに、フリーランスに業務を委託するフリーランスは、発注事業者としての立場でフリーランス新法の適用を受けることになるということです。
参照元
厚労省「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(フリーランス・事業者間取引適正化等法)リーフレット
フリーランス保護新法という別称からもわかるように、フリーランスのwebライターもこのフリーランス新法で法的に守られるようになるわけですが、フリーランスに業務を委託する発注企業側にとって、なにがどう変わるのでしょうか。
法令が施行されるまでに特定業務委託事業者(発注事業者)が準備すべきことや、気を付けるべきポイントについて解説していきます。
フリーランス新法で定められた7つの義務事項
フリーランス新法では以下の7つの義務事項が定められています。
- 書面等による取引条件の明示
特定受託事業者(フリーランス)に業務委託をした場合には、書面や電子メール、フォームなど事実確認ができる手段を用いて、「委託する業務の内容」「報酬額」「支払期日」等の取引条件を明示しなければなりません。 - 報酬支払期日の設定・期日内の支払い
発注した物品や成果物を受け取った日から数えて60日以内の報酬支払期日を設定し、その支払い期日内に報酬を支払わなければなりません。たとえば「月末締め・翌月末払い」としてきた場合でも、支払い義務は「納品された日から60日以内」なので、納品日により支払期日が変わります。また再委託の場合には、発注元から支払いを受ける期日から30日以内に支払う必要があります。 - 禁止事項の明確化
業務委託期間が1か月以上の場合、フリーランス新法の第5条で以下の行為が禁止されます。
※以下引用です。
2.特定受託事業者に係る取引の適正化
(前略)
(3)特定受託事業者との業務委託(政令で定める期間以上のもの)に関し、①~⑤の行為をしてはなら ないものとし、⑥・⑦の行為によって特定受託事業者の利益を不当に害してはならないものとする。
[第5条]
① 特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく受領を拒否すること
② 特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく報酬を減額すること
③ 特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく返品を行うこと
④ 通常相場に比べ著しく低い報酬の額を不当に定めること
⑤ 正当な理由なく自己の指定する物の購入・役務の利用を強制すること
⑥ 自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること
⑦ 特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく内容を変更させ、又はやり直させること
※引用元:厚労省「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律 (フリーランス・事業者間取引適正化等法)の概要 (新規)」
(https://www.mhlw.go.jp/content/001101551.pdf) - 募集情報の的確表示
広告やクラウトサービスなどでフリーランス募集の情報を掲載する際には、虚偽の情報や有利な条件であると誤解を与えるような表現をしてはなりません。また、正確な内容で表示したうえで、つねに最新の情報が掲載されるようにしなければなりません。 - 育児介護等と業務の両立に対する配慮
フリーランスに継続的(業務委託期間6か月以上)に業務を委託する場合は、育児や介護等と業務の両立ができるように、フリーランスの申し出に対応する配慮をしなければなりません。たとえば通院時間の確保、時短勤務、オンラインによる業務といった対応などが該当します。 - ハラスメント対策に係る体制整備
フリーランスに対するさまざまなハラスメントに関する相談窓口の設置やハラスメント防止のための研修実施など、企業側のハラスメント対策の体制を整えなければなりません。 - 中途解除等の事前予告・理由開示
継続的な業務委託を途中でやめたり、更新しないことになったりする場合は、原則として30日前までにフリーランスに対して予告をしなければなりません。
フリーランス新法施行前に発注事業者が準備すべきこと
ここまでフリーランス新法の対象者や定義、具体的な内容について説明してきましたが、2024年11月1日(予定)に同法が施行されるまでに、業務を委託する企業側にはどのような準備が必要なのか、整理しておきます。
契約書類など各種書式の見直し
書面やメール、依頼フォームなどこれまでフリーランスに業務委託する際に使用していたフォーマットを見直さなければならない可能性があります。
委託する業務の内容や作成・提供すべき成果物の内容、報酬額、支払期日、品目、品種、数量、規格、仕様等が明記されている書面になっていなければなりません。
フリーランス側に誤解が生じないよう具体的な情報の記載が必須となりますので、既存の書類がフリーランス新法の規定に則していなければ、いまのうちに修正対応が必要です。
支払い期日の確認・修正
フリーランス側に発注事業者は、発注した物品や役務を受け取った日から数えて「60日以内」のできうる限り短い期間内に報酬支払期日を設定し、期日以内に報酬を支払わなくてはなりません。
月末締め翌月末支払いなど支払いサイトを定めていると思いますが、会社の経理の締め日に関係なく、受領日から60日以内になるため、場合によっては経理システムなどの調整が必要になるかもしれません。
また、フリーランスに再委託される役務提供の場合は、元委託支払期日から起算して30日以内の期間内に報酬支払期日を設定する必要があります。
現在どのような支払いサイトになっているかを確認し、フリーランス新法が施行されるまでに法令に則した支払いができるよう、確認および修正をしてください。
優越的地位の濫用・不公正な取引がないか再確認
これまでの慣例にとらわれず、下請法や独占禁止法同様、フリーランス新法においても、フリーランスが不利益を被るような不当な条件で業務を委託していないか、社内で再度確認してください。
法務の専門家を交えて、フリーランス新法への対応を検討するなど、早めの対応をおすすめします。
またフリーランス新法が施行される前に、フリーランスを保護する目的である本法令の概要や今後の対応について、研修等で社員に認知徹底させることも重要です。
フリーランスの就業環境を整備する
発注事業者が直接フリーランスに業務を委託している場合は、フリーランスへのハラスメント対策やトラブル対応窓口の設定など、フリーランスの就業環境を整備する準備が必要です。
またフリーランスが育児や介護で休む場合などの社内体制の確認や運用方針の策定なども進めておくとよいと思います。
業務委託の仕組みや発注中の管理体制の見直し
フリーランスへの仕事の発注にかかわる一連の業務、すなわち募集や契約、発注、納品後の支払い、契約更新、契約解除などに関して、フリーランス新法に則したフローになっているかを確認し、必要に応じて見直しを図ってください。
社内への周知徹底および社外への広報と情報収集
フリーランス新法はこれから施行される法律ですし、まだ不確定要素もいくつか残っています。ただ、社内に対する周知徹底については、いまからでも準備ができるはずです。
さらにフリーランス新法を遵守している会社であることを、社外にアピールする広報活動も視野に入れたほうがよいかもしれません。
2024年11月1日に施行が予定されていますが、今後も随時各省庁から情報が発信されていくと思いますので、最新の情報をキャッチアップしていけるように情報収集をしていくことをおすすめします。
フリーランス新法が制定された背景とは
「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」が2021年3月26日に公開されていましたが、これはあくまで罰則を伴わないガイドラインでした。
そこで今回、従業員を持たない一人社長なども含むフリーランスを不当な扱いから法的に保護する目的で、フリーランス新法が制定されました。
約4割のフリーランスが発注事業者とのトラブルを経験
これに先立って内閣官房日本経済再生総合事務局によって実施された「フリーランス実態調査結果」によれば、およそ4割のフリーランスが発注事業者である取引先となんらかのトラブルを経験したことがある、と回答したことがわかっています。

また同じ調査では、フリーランスは40代以上のミドル・シニア層が全体の7割を占めており、今後もフリーランスとして働きたいと回答した人は8割に達していました。このようなことからも、今後さらにフリーランス人口が増えていくことが予測されています。
企業が優越的地位を利用してフリーランス事業者に不当に不利益を与えないように、これまでも独占禁止法や下請法などで規制されてきましたが、今回はフリーランス新法で明確な定義と適用範囲、罰則などの法令化を実現することになりました。
その理由は上記図にあるように、トラブルを抱えるフリーランスの労働環境の整備が急務であることと、多様な働き方の広まりを受けて今後ますます、フリーランスとして働く国民が増えていくことを見越した対策が必要であると考えられたからです。
ギグ・エコノミーの拡大と高齢者の雇用促進も
ギグ・エコノミーとは、インターネットを通じて短期もしくは単発で仕事を個人で請け負う働き方を指すのですが、政府はこのギグ・エコノミーが高齢者の雇用拡大にも貢献すると考えています。
高齢化が進み社会を支える現役世代が減少するなか、このギグ・エコノミーによる高齢者の雇用が促進されることによって、社会保障の担い手を増やしていきたいという思惑もあるようです。
フリーランスという就業形態の不安を払しょくし、たくさんの高齢者や主婦にもっと活躍してもらえるように、多様な働き方を推奨するためにも、フリーランスの職場環境の整備が急がれた、という背景もあります。
そのため内閣官房、厚生労働省、中小企業庁、公正取引委員会が連携して、今回のフリーランス新法の制定と施行に動いてきたということです。
※参照元:公正取引委員会(内閣官房・中小企業庁・厚生労働省)
「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」(パンフレット)
フリーランス新法に違反した際の罰則
細かい条件はこれから整備されることになると思いますが、フリーランス新法に違反した場合の罰則は、現時点では以下のように定められています。
- フリーランス新法に違反があった場合は、フリーランスから行政機関に申し立てをすることができる
- 申し立て通りであれば、公正取引委員会もしくは厚生労働省は当該企業に是正のための指導および勧告をおこなう
- 当該企業がこの勧告に従わない場合は命令となり50万円以下の罰金が科せられたうえ、社名が公表される
フリーランス新法と下請法の違い
下請法でもフリーランスを保護する規制はありましたが、フリーランス新法とはどこがどう違うのでしょうか。
規制対象となる事業者の違い
下請法で規制されるのは、資本金が1,000万円超の親事業者が対象です。したがって資本金が1,000万円以下の事業者については、下請法の規制が適用されることはありませんでした。
いっぽう、フリーランス新法ではすべての事業者が規制の対象になります。したがってフリーランス(個人事業者、一人社長など)がフリーランスに業務を発注する場合でも、フリーランス新法の規制を受けることになります。
フリーランス新法のインボイス制度への影響は?
インボイス制度の導入からまだ1年も経っていませんが、フリーランス新法とインボイス制度にも関係性があります。免税事業者に対する発注控えや減額措置など、フリーランスが不利な立場になるトラブルが報告されています。
今回のフリーランス新法では、こうしたトラブルの回避も目的としています。フリーランス新法施行後は、以下のような行為が禁止されるようになります。
- 免税事業者に対して、発注事業者が消費税相当額を支払わない
- 課税事業者になった場合、発注事業者側が値上げ交渉にまったく応じない
- 優越的地位を利用して、取引停止などをちらつかせて課税事業者になることを強要する
参照元:厚労省 令和五年法律第二十五号「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」条文
ライターステーションはフリーランス新法への対応も万全
ライターステーションは登録しているwebライターとの契約、発注、納品まですべての工程をシステム化しております。
本記事で解説してきたフリーランス新法における特定業務委託事業者(発注事業者)として、これまでも新法や法令の改正に逐次対応してまいりました。今回のフリーランス新法についても、抜けもれなく対応を進めてまいります。
コンテンツマーケティングの強化などのために、直接フリーのwebライターに発注しているという企業もあるかと思いますが、その場合は発注事業者としてフリーランス新法に対応していかなけれなりません。
予定通りであれば2024年の11月1日がフリーランス新法の施行日となりますので、あまり時間に猶予はありません。
今後の自社メディア運用や、フリーランスへの発注にご不安を感じているかたは、一度ライターステーションまでご相談ください。どのようなことにお困りなのか、くわしくお話を伺わせていただきます。
この記事を書いた人

- 1,200名以上登録されてるライタープラットフォーム:ライターステーション責任者。2024年より「記事作成代行サービス」や「Hubspot導入支援」、「インタラクティブ動画」など、コンテンツマーケティングに関する支援を開始。
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